第11号
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片山邦雄の「紆余曲折」 2001/12/17
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今週の目次
◆連載コラム:第十二回 「魂のパースペクティブ」
◆編集後記
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◆連載コラム: 第十二回 「魂のパーステクティブ」
窓の外に、もうすっかり色づいてあざやかな紅葉が見える。 ここは、アメリカ中西部の町、ボウルダーで開かれている
「ジロントロジー(老年学)」のシンポジウム会場だ。
午後の薄日がさす講堂で、壇上にあがったラム・ダスは、 車椅子に座ったまま、白い紙のうえに、
大きな三重の円を描いた。 そして、一番外側の円に「1」、 その内側の円に「2」、
真ん中の一番小さな円に「3」と書き加えた。 それからラム・ダスは、こう説明しはじめた。
「これは、私たち一人ひとりの肖像画です。 1番は、エゴの「私」、
2番は、魂の「私」、 3番は、とりあえず、3番と呼びましょう。
ここをどう呼ぶがで争いが起きたりするからです(笑)。 私たちの一人ひとりがみんな、これら3つの「私」をもっています。
そして、真ん中にある3番の「私」は、 あなたの「私」も、わたしの「私」もまったく同じものです。
これが、私たちの存在における神秘です」
ラム・ダスによると、 この肖像画は、階層上になっているたくさんの意識レベルを三つに集約したモデルだという。なかでも3番は、ヒンドゥー教では「アートマン」、
キリスト教の一宗派、クエーカー教では「内側で聞こえる神の小さな声」
と呼ばれる場所を指す。3番は、私たち一人ひとりのなかにある、神が内在する場所であり、
そこにおいて、私たちは宇宙を自分の内側から認識することが可能になるという。
「わたしの師であるマハラジは、 この3番にアイデンティファイしていました。
ですから、わたしの心のなかも全部わかったのです」
しかし、だからといって、「わたしは神である」と自己顕示するひとには、
気をつけなくてはならない、とラム・ダスはいう。 なぜなら、その場合の「わたし」とは、
1番のエゴである可能性が非常に大きいからだ。 少なくとも、誰もが3番をもっている以上、
自分だけを特別扱いする人物には、よくよく注意しなくてはならない。
それに対して、1番のエゴというのは、この人生の管理人だという。
エゴは、「あれが食べたい」とか、「あれが欲しい」とか、 数限りない動機をもっている。たとえば、
夫や妻、母親や父親、医者や教師などといった 、私たちが家庭や社会において持つさまざまな役割も、このエゴによってつくり出されるのだ。
このエゴの存在感は非常に大きなもので、 私たちの思考や感情はもとより、さまざまな苦痛や不安も、
すべてエゴのなかにある。そして、ほとんどの場合、 私たちは、そのエゴと自分とを同一化しているという。
このことを、人生というサイクルのなかで見てみると、 次のように語ることができる。
ひとはこの世に誕生すると、名前をあたえられる。 そして、両親からその名前を呼ばれていくうちに、
自分はその名前と身体をもった一存在であると思いこむようになる。
やがて、エゴと同一化した周囲の人びとと接していくうちに、
自分自身も、徐々にエゴと同一化するようになる。 さらに、エゴの「私」は、成長していく過程で、
さまざまな動機をもちながら、 次第に、いろいろなものを獲得していく。
言葉、習慣、パーソナリティ、学歴、友人・・・。
だが、エゴと同一化しているかぎり、 人生とは、どう考えても不利なゲームなのだ。
なぜなら、人生において獲得したものは、 かならず、 死というエゴの消滅の瞬間に、手放さざるをえないからだ。
死後においては、何ひとつ、エゴが手に入れたもので、 存続するものはない。
最終的に、私たちは誰であっても、 家族や財産、健康などを手放さざるをえない。
もし、私たちが、エゴの「私」だけにアイデンティファイしていたならば、
そこには例外なく苦しみが待ち受けている。 脳卒中の発作に見舞われたラム・ダス自身、
まさしく、そのことを身をもって経験したのだった。
ところが、2番の魂の「私」は、エゴとはちがう動機をもっている、という。
魂には、たったひとつの動機しかない。 それは、最愛の存在である源と、ひとつに溶けあうことだ。
なぜなら、私たちのなかにある魂は、まさしく、 そこからやってきているからだ。
もうひとつ、魂には、エゴを目撃するという働きがある。 エゴにとって、死は恐怖だが、
魂は、死をひとつの章の終わりとして、ただ見ているだけだという。
魂とエゴでは、時間のパースペクティブがちがうのだ。 そして、死によってエゴが消滅したとしても、
魂は輪廻をくりかえすという。
ラム・ダスはこう語る。 「魂はこの人生を目撃しています。
わたしのエゴが脳卒中の発作に苦しみ、 魂がそれを目撃しています。
発作を見ているわけです。 発作とその痛みが、わたしを目撃者の視点まで押し上げました。
わたしは、発作のあと、みんなが、『ラム・ダスは軽くなった』
と言っているのを知っています(笑)」
「わたしはかつて、エイズで死に直面する人びとを訪ねていました。
わたしは助ける役目をもって、彼らの部屋にはいり、 枕をなおしたり、水をあげたりしていました。
しかし、あるとき、彼らの部屋のドアの前に立って、 『わたしは、この人生に来ている魂である』
と、自分に語りかけたのです。そして、部屋にはいりました。
すると、もうその部屋には、 さまざまな人生の問題を抱えた個人はいませんでした。
そこにわたしは、仲間の魂を見出したのです。 ある意識の次元では私たちは男であったり、女であったりします。
しかし同時に、私たちは魂でもあるのです。 最愛の存在と溶けあうことを切望した魂でもあるのです」
ラム・ダスが会場からの質問を受けていたとき、 ある女性がステージまできて話しだしたことがあった。
彼女は、ベトナムで生まれ、 長年にわたる戦火のなかで過ごしてきたという。
家族をみんな失い、その傷を癒すことが彼女の人生の旅だった。
しかし、アメリカに移ってきたにもかかわらず、 今回、また9月11日の事件が起こり、
6歳になる息子といっしょに 悲惨な暴力を目の当たりにしてしまったと。
するとラム・ダスはその女性に、こう言った。 「あなたは、ふたつのレベルで機能しています。
ひとつのレベルでは あなたは、母親や納税者でありながら、 もうひとつのレベルでは、魂なのです。
人生におけるトラウマが、あなたの魂に、 人びとと心をわかちあう勇気をあたえたのではないですか?
あなたがどの「私」にアイデンティファイしているかによって、
すべてはちがってきます。 エゴに同一化すれば、苦しみは悪いものになりますが、
魂に同一化すれば、苦しみはそれほど悪いものではありません。
すべては、どこに立つかによって変わるのです」
私たちは、ほとんどの場合、エゴに同一化しながら、 役割にはまりこんで生きている。そして、
ひとたびそこに大きな苦難が訪れると、 危機的な状況になりかねない。
しかし、エゴから魂へと移行することによって、 見える世界がまったく変わったものになるとすれば、
エゴにとっては、つらすぎる出来事も、 魂への成長の糧として、乗りこえていくことが可能なのではないか。
これは大きな問いかけである。 というのも、われわれの世界には、いま一見して
理不尽な苦しみがあふれているからだ。かつて、娘を殺されてしまった両親にむけて書き送った手紙のなかで、
ラム・ダスは次のように書いている。
「耐えがたきものを耐えるとき、 あなたのなかにある何かが死にます。
そして、まさにそのような魂の闇夜においてこそ、 あなたは神が見るように見て、
神が愛するように愛する準備をしているのです」
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◆編集後記
ラム・ダスの講演のあとには、 どこにいっても必ず、 彼と話をしようと長蛇の列ができます。
サインをもらおうと、 読みこんだボロボロの『ビー・ヒア・ナウ』を抱えているひともいれば、
自分の悩みを話してアドバイスを求めるひともいます。
ボストンでおこなわれたある講演では、 お昼の休憩時間が終わりに近づき、次の講義が始まる直前に、
40代ぐらいのある男性が、ラム・ダスに挨拶に行きました。 何かひとこと言葉をかけたのか、
ただ見つめ合っただけなのかわかりませんでしたが、 その男性がすぐに立ち去ったあと、
ラム・ダスは、一瞬、目を閉じ、舞台の上で泣きだしました。 わずかな間でしたが、なぜか、
その涙には、心をうつものがありました。
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●片山が共訳した『愛という奇蹟』(ラム・ダス編著)については、パワナスタ
出版のホームページをご覧ください。
http://www.pawanasuta.com/
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□発行者 片山邦雄 mailto:kkatayama@gol.com
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